IT・コンピュータ

邪悪になった Google

Don’t be evil

「私たちは、長期的に見れば、短期的な利益を多少犠牲にしても、世界のために良いことをする会社のほうが、株主として、またその他のあらゆる意味でより良い結果をもたらすと強く信じています。」

Don’t be evil. We believe strongly that in the long term, we will be better served—as shareholders and in all other ways—by a company that does good things for the world even if we forgo some short term gains.

2000年頃に作成された非公式ながら有名な Googleの行動規範「邪悪になるな」は、形を変えながら受け継がれていたが、2018年に行動規範から削除され、コロナ禍以降は株式公開当時に Googleの共同創設者 ラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏が述べた「Googleの検索結果が公平で客観的なものである」という Googleシステムの根幹にも疑問が生じている。

様変わりした SERP

2023年になって Googleの SERP(検索した際に表示される検索結果ページ)は、スポンサーサイト・関連する質問・YouTube・その他の画像などで埋め尽くされ、製品の検索時にはスポンサーサイトの下に Amazonを始めとする ECサイトが並び、純粋なオーガニック検索の結果はページをスクロールしなければ表示されないなど、「信頼性の高い公平で客観的な」かつての Googleの検査結果とは程遠い状況になっている。

SERPの仕様変更はオーガニック検索からのトラフィックのシェアが多いウェブサイトにとって致命的なダメージがあり、上位表示されていたページがページの下に押し下げられることでトラフィックが激減し、収益が圧迫されることになる。

精度が低下した検索

Googleは2020年頃からアルゴリズムの変更頻度が高くなり、2023年には 3月に「ブロードコアアップデート」、5月に「役立つコンテンツのアップデート」、8月に「ブロードコアアップデート」、9月に「役立つコンテンツのアップデート」、10月に「ブロードコアアップデート」と、かつてない頻度でアルゴリズムの大型アップデートが実施されているが、検索キーワードと関連性の低いページや古いページが上位表示されるほか、表示されるページがシャッフルされるなど、検索結果が非常に不安定で、Googleが最も優れていた「検索精度」が目に見えて低下している。

「役立つコンテンツのアップデート」では、これまで Googleが提唱してきた 情報価値の高い信頼性のあるユーザーフレンドリーなコンテンツ を制作してきた中小のパブリッシャーが軒並みトラフィックを失っており、Googleの信頼性は地に落ちている。

Googleの検索エンジンは精度が低下しただけでなく、2023年には 3月のコアアップデート以降は下記のような現象が頻繁に発生している。

  • 新規ページがインデックスに登録されない
  • サイトマップが送信できない
  • インデックスに登録されているページが表示されない
  • インデックスからページの削除と再登録が繰り返される

Googleの検索アルゴリズムは不透明なため原因も分からず、対処のしようもないが、「役立つコンテンツのアップデート」のアルゴリズムに導入している AIの影響という噂もある。

2020年以前ならオーガニック検索だけでサイト運営できていたが、現在は安定したトラフィックが期待できないため、新規サイトの運営は相当に厳しい状況にある。

株価の下落

グーグルの親会社「アルファベット」は2023年第3四半期の決算で増収増益だったが、クラウド部門の実績が予想を下回ったことで決算の翌日に株価が急落。

広告収入は 17.4%増加しているが、YouTubeのアドブロック禁止や、SERPの仕様変更など、短期的な利益を優先した結果であり、その代償として多くのウェブマスターから反感を買い、これまで築き上げてきた信頼を失墜させている。

独占禁止法違反

米国では 2020年10月に Googleが自社の検索エンジンを初期設定にする対価に、スマホメーカーに年間 100億ドルを超える支払い、「インターネット検索の競合他社を排除してきた」として反トラスト法違反で提訴され、2023年10月30日に証人として出廷した Googleのピチャイ最高経営責任者が支払いを認めた
一方、日本でも 2023年10月23日に公正取引委員会がようやく 独占禁止法違反の被疑行為での審査を開始

Googleは「検索エンジンは変更できるため、独占禁止法には当たらない」という見解だが、1990年代に「インターネット=Yahoo」と認識しているユーザーがいたように、ブラウザやアプリのデフォルト設定は非常に大きな影響力があり、サービスの良し悪しに関係なく、半数以上のユーザーがデフォルト設定から変更しないことを Googleは認識している。

実際に Googleの検索精度が低下していることを実感しているのはウェブマスターや中小のパブリッシャーで、一般ユーザーにとっては「検索結果」としての認識しかないため、例え上位に関連性の低いページや、Amazonの製品ページが並んだとしても、短期的に Googleの利用率が低下することはなく、その裏付けがあるからこそ Googleは検索エンジンのデフォルト設定に巨額の支払いをし、より多くの広告収入として回収している。

受け皿を狙っている Microsoft

中小のパブリッシャーやウェブマスターが Googleに対して大きな不信感を抱える中、2023年10月26日に米国 Microsoftが ウェブサイトを収益化する Microsoft pubCenter の立ち上げを発表

ターゲットは中小のパブリッシャーで、Google Adsenceと併用でき、当初は米国国内の企業にサービスが提供されるが、世界的に拡大の予定(日程などは不明)になっている。
Microsoft pubCenterの収益性が未知数なため何とも言えないが、Adsenceの代替えになるようなら Googleから乗り換えるウェブマスターが出現し、Googleへの不信感が募るほどにウェブサイトにおける Adsenceの価値は低下することになる。