食・健康

悪玉コレステロールの偏見と誤解

コレステロールの概要

コレステロールは食べ物から吸収するものと体内で合成されるものがあり、食べ物に含まれる脂質は分解さた後に小腸で吸収・合成され、リポタンパク質「キロミクロン」として血中に入り、肝臓でアポリポタンパク質・コレステロール・トリグリセリドが含まれる VLDL(超低密度リポタンパク質/ 超低比重リポタンパク質)に再合成されて血液に放出され、VLDLは血中で酵素によってトリグリセリドが分離し、コレステロールの比率が高まって LDL(低密度リポタンパク質/ 低比重リポタンパク質)になるが、食事などで吸収される外因性コレステロールは全体の2~3割程度で、大半は体内で生成される内因性コレステロールになる
内因性コレステロールは アセチル-CoA(コエンザイムA)を原料に肝細胞の小胞体や小腸などで合成され、血管を通って肝臓に運ばれて VLDLに再合成される。
一方、HDL(高密度リポタンパク質/ 高比重リポタンパク質)は、コレステロールを含まないリポタンパク質として合成され、LDLの過剰によって血管内皮や末梢神経に蓄積したコレステロールを肝臓に戻す働きがある。

コレステロールの役割

コレステロールは体内に必要な物質で、細胞膜の構成要素ステロイドホルモンの合成脂肪消化と吸収ビタミンDの合成 などの重要な役割を担っており、LDLは肝臓から体内に分泌された後、血管内膜に存在する細胞に運ばれ、血管内膜にある受容体が LDLを認識してコレステロールを吸収し、吸収されたコレステロールは細胞内に蓄積されてエネルギー源として利用される。

  • 細胞膜の構成要素
    コレステロールは細胞膜の構成成分で、細胞内外の物質の輸送やシグナル伝達を可能にしている。
  • ステロイドホルモンの合成
    コレステロールは成長や生殖機能など様々な生理的プロレスに必要なステロイドホルモンの合成に使用されている。
  • 脂肪消化と吸収
    コレステロールは肝臓で胆汁酸と結合して胆汁になって胆嚢に貯められ、脂肪の消化や吸収を助ける役割を持っている。
  • ビタミンDの合成
    コレステロールは皮脂細胞に紫外線が当たると活性化し、ビタミンDの前駆体である 7-デヒドロコレステロール へ変換され、この変換反応によって カルシウム・リンの吸収や骨の形成に不可欠なビタミンDが合成される。

コレステロールのリスク

LDLが増加して血管内膜に存在する受容体の数を超えると、吸収されなかった LDLコレステロールは血管内膜に蓄積することで血管壁を厚くして血液の流れが悪くなる動脈硬化の原因になるほか、酸化して炎症を引き起こす可能性があり、動脈硬化によって心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まるため、日本では LDLコレステロール が 悪玉コレステロール と呼ばれ、TV番組や広告などでも コレステロール = 悪 というイメージ操作が行われている。

コレステロールを含まない HDLは血管内に蓄積した コレステロールと結びついて肝臓に戻すことから 善玉コレステロール と呼ばれているが、LDLと HDLは「コレステロールの配送と返送」という役割が異なるだけで、善悪で判断できるものではない。

コレステロールの摂取量

LDLの数値が高いと動脈硬化によって心筋梗塞や脳梗塞のリスクは高まるが、医師や栄養学者などから構成されている 日本脂質栄養学会 は、2010年に コレステロールが高いほど死亡率が低い という内容を 長寿のためのコレステロールガイドライン で発表し、従来の「コレステロールは下げるべき」という栄養指針に一石を投じている。
また、ガイドラインではコレステロールの摂取量を増やしても血液中のコレステロール(血清コレステロール)が増加するのは一時的で、長期的にコレステロールは増加しないことも示されている。

「長寿のためのコレステロールガイドライン」が発表された5年後、厚生労働省はコレステロールの摂取基準の算定にエビデンスを得られなかったという理由でコレステロールの摂取基準を撤廃した。

日本養鶏協会/ コレステロールのキホンを知ろう より

一昔前には「卵はコレステロールが多いので1日2個まで」、もっと前には「卵は1日1個」と実しやかに言われていたが、重要なのはコレステロールの摂取量ではなくバランスの良い食事や適度な運動で、コレステロール値が低すぎるのは高コレステロールよりも健康リスクが大きい。

動脈硬化の予防

日本では現在でもコレステロール害悪説が根強いが、現代の日本では オメガ-6脂肪酸 を主成分としている リノール酸 を多く含む植物油(サラダ油・コーン油・大豆油・ひまわり油など)の過剰摂取の方が問題で、オメガ-6脂肪酸の代謝物である アラキドン酸 は炎症反応を促進する作用があり、オメガ-6脂肪酸の過剰摂取によって炎症が慢性化すると、動脈硬化などの心血管疾患のほか関節炎・糖尿病・肥満などの慢性疾患のリスクが高くなる。

一方、  オメガ-3脂肪酸 を主成分としている α-リノレン酸エイコサペンタエン酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富な青魚や亜麻仁油、えごま油などは炎症を抑制する効果があるほか、エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)は血中コレステロール値を低下させる働きがあり、動脈硬化の予防に関与していると考えられており、積極的に摂取することが推奨されている。
また、オメガ-9脂肪酸 を主成分としている オレイン酸 が豊富なオリーブオイルや菜種油も、LDLの酸化抑制とHDLを増やす効果があり、心血管疾患のリスクを低減するヘルシーな脂質だが、過剰摂取はカロリーの増加につながる可能性があるため注意が必要。

日本油脂検査協会:食用植物油脂の脂肪酸組成