有機フッ素化合物
有機フッ素化合物はフッ素と炭素の元素が結合した有機化合物の総称で、炭素との結合は非常に強く安定しているため、耐久性や熱安定性、化学的な安定性を持ち、非粘着性や耐熱性などの特性を利用して非粘着加工製品・医薬品・農薬・表面処理剤など、さまざまな産業や応用分野で使用されており、一部の有機フッ素化合物を除き一般的には比較的低い環境影響を持つとされている。
有機フッ素化合物の特徴
- 非粘着性や撥水性
有機フッ素化合物は非常に滑らかな表面を形成し、粘着や吸水性を低下させる - 耐熱性
有機フッ素化合物は高温に耐える性質があり、高温下で安定性を保つ - 化学的安定性
フッ素-炭素結合は非常に強く、多くの化学的攻撃に対して安定性がある
PFAS(Per- and polyfluoroalkyl substances)
PFAS(Per- and polyfluoroalkyl substances)は特定の化学構造を持つフッ素化合物のグループで、一般的にはフッ素原子がアルキル基やフルオロアルキル基に結合したペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称で、2018年の経済協力開発機構(OECD)の報告ではて約 4,700 物質が特定されている。
PFAS は防水性・耐油性・耐火性などの特性があり、消防用フォーム剤・防水製品・食品包装材料・衣料品などの製造に使用される一方で、一部の PFAS は環境への潜在的な悪影響や健康リスクを持つことが判明している。
リスクのあるPFAS
代表的な PFAS には PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)などがあり、過去には多くの製品や産業で使用されていたが、生分解性がないため環境中に長期間残留することや、水源汚染による飲料水の安全性への懸念、免疫機能の低下・肝臓損傷・内分泌障害・発がんリスクの増加など健康への影響が問題視され、国や地域によって規制が導入されている。
- PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
撥水性や防油性を提供するため、消防用フォーム剤や防水加工製品、工業製品などで広く使用されていたが、環境中で生分解性が低く、生物に蓄積することがあり、 - PFOA(ペルフルオロオクタン酸):
非粘着性や耐久性を提供するため、家庭用製品や衣料品、電子機器、防水製品などで使用されていたが、環境中で生分解性が低く、人体に蓄積することがあり、長期的な曝露が免疫機能の低下や発がん性のリスクを引き起こす可能性がある。 - PFHxS(ペルフルオヘキサンスルホン酸)
撥水性や防油性を提供するため、消防用フォーム剤や工業製品で使用されていたが、環境中に比較的長期間留まることが知られており、生物に蓄積する可能性があるほか、免疫機能や肝臓に影響を及ぼす可能性が示唆されている。
国内でモニタリングされている PFAS は上記の PFOS・PFOA・PFHxS の 3物質のみで、環境省は2020年5月にPFOS と PFOA を 要監視項目及び指針値(人の健康の保護に係る項目)に追加し、暫定的な目標値を(PFOS・PFOAの合計値)50ng/L以下に設定、2021年3月には PFHxS が要監視項目及び指針値に追加されている。
また、厚生労働省も2020年4月から PFOS・PFOA を 水質管理目標設定項目 に追加している。
PFAS に関する国際条例
PFOS・PFOA・PFHxS に関しては国際的な条例や規制が存在し、国際的な規制や管理の対象となっている。
- ストックホルム条約(2001年)
人の健康や環境への悪影響を有する化学物質 残留性有機汚染物質(POPs)の製造・輸入・輸出・販売・使用・廃棄に関する国際的な枠組み(2018年現在 180ヶ国とEUが締結)で、PFOS が POPs に追加されている。 - ロッテルダム条約(1998年)
危険な化学物質の輸出入と廃棄物の輸出入に関する国際的な規制枠組みで、PFOS と PFOA がロッテルダム条約の対象物質として指定されており、輸出する際には通知と同意手続きが必要。
日本は2004年12月にストックホルム条約を発効し、2010年4月にされた際に PFOS・PFOA が化審法(化学物質等の規制に関する法律)の第一種特定化学物質に指定され、特定の用途を除き製造・輸入・使用等が禁止されている。
PFHxS に関しては PFOS・PFOA の代替物質として使用されていた可能性があり、具体的な製造・輸入量は不明だが、2024年春以降に 化審法の第一種特定化学物質に指定される予定になっている。
国際的な動向については、PFOS・PFOA・PFHxS 以外の PFAS 関連物質も管理・規制の対象としても目標値などが検討・設定されているが、主に動物実験の結果をもとに算出された数値で、現状ではヒトへの健康被害などはデータ不足のために評価できる段階ではない。
テフロン(フッ素樹脂)
テフロンは米国デュポン社の商標で、一般的にフッ素樹脂のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を指す 有機フッ素化合物。
PTFE はフッ素原子が炭素原子と結合しているポリマーで、非常に低い摩擦係数と高い耐熱性があるため、液体や汚れが表面に付着しにくく、物質が滑りやすくなるほか、化学的にも非常に安定しており、多くの薬品や溶剤に対して耐性がある。
フライパンなどの調理器具で使用されるテフロン加工やフッ素コーティングに有毒性はなく、剥がれたテフロン(PTFE)を食べても消化器官ではほとんど分解されずに通過するため、健康への直接的な影響はほとんどない。
ただし、テフロンは高温で加熱されると、ポリマーの分解により有害ガスが放出される可能性があり、長時間にわたって高濃度で吸引された場合に健康に影響を及ぼす懸念があるため、テフロン加工の製品は低温から中温までの使用が推奨されている。
フッ素系の防水スプレーで使用されているのも PTFE なので、通常使用による健康への直接的な影響はない。
歯磨き粉のフッ素
フッ素は歯のエナメル質を強化し、虫歯の発生を防ぐための効果があるため歯磨き粉などに含まれるが、歯磨き粉のフッ素は摂取しても安全な フッ化ナトリウム が使用されており、化学工業用のフッ素とは形態や効果がまったく異なる。
フッ化ナトリウムは有機フッ素化合物ではなく、ナトリウム(Na)とフッ素(F)の元素間のイオン結合によって形成される 無機化合物 で、歯科医療や産業プロセスでの防腐剤、殺菌剤、融剤など多くの応用分野で使用されている。