社会・時事

ポイント還元事業とキャッシュレス決済の課題

ポイント還元事業

2019年10月1日の消費税 増税とともにポイント還元が始まったが、施行直前の9月18日に日本チェーンストア協会、日本スーパーマーケット協会、全国スーパーマーケット協会、日本チェーンドラッグストア協会の 流通4団体が「 キャッシュレス・ポイント還元事業 」についての意見・要望を提出 した。

要望書では国が行うポイント還元という値引きに対しての懸念が示されているが、消費者はキャッシュレス決済で購入すると、消費税込みの金額の対して5%のポイントが貰えるので、うまく利用すれば増税前よりも安く購入できることになり、短期的に見ると中小・小規模店舗の集客に繋がりそうだが、「 キャッシュレス決済 」の手段があまりにも細分化して、オペレーションや端末を含めて非常に煩雑になっているほか、支援期間終了後は加盟店手数料が通常の料率に戻り、ポイント還元もなくなるため、状況が一気に悪化する懸念がある。

キャッシュレス決済 多様化の問題

PayPay や Line Pay、楽天ペイなどの「◯◯ペイ」と名の付く QR決済 が脚光を浴び、 キャッシュレス決済の代名詞のようになっているが、キャッシュレス決済には従来のクレジットカードのほかにも、楽天Edy、iD、QUICPay などの電子マネーも含まれており、電子マネーやQRコード決済は顧客の囲い込みを狙ったポイントカードと化している。

クレジットカード・電子マネー・QR決済で決済事業者は異なり、QRコード決済に関しては キャッシュレス推進協議会が「JPQR」というQRコード決済の統一仕様を策定し、LINE Pay・メルペイ・楽天ペイなどが サポートを発表しているが、QRコード決済のシェアが LINE Pay と並んで高い PayPay は対応していないなど、キャッシュレスサービスが乱立しており、ポイント還元事業の加盟店で利用できる決済サービスも統一されていない。

クレジットカードとQRコード決済

マスコミがキャッシュレス決済を取り上げる際には、なぜかQRコード決済に焦点を当てるため「キャッシュレス決済 = QRコード決済」というニュアンスで伝わっているが、国内で最も普及しているのはクレジットカードで、 保有率は 84% と高水準な上に、VISA/ Master系とJCB/ Amex系、中国の観光客が多い場合は銀聯カードを使用できるようにするだけでグローバル化も対応できるため、普通にクレジットカードが使用できる加盟店を増やすほうがはるかに効率的で分かりやすい。

中国からの旅行者はアリペイやウィチャットペイなどのQRコード決済がメインだが、中国以外の観光客が保有しているのはクレジットカードで、中国人観光客もほとんどが銀聯カードを所有しているため、クレジットカードを導入するだけで多くの問題は解決する。

東京オリンピックに向けてキャッシュレス化を推進するなら、新たにQRコード決済などを導入しなくても、クレジットカード決済の取扱店を増えせば済むだけの話で、飲食店でPayPayなどQRコードが使用できても、海外からの観光客にはメリットがない。

キャッシュレス決済導入のリスク

国が先導するキャッシュレスキャンペーンは、消費者にキャッシュレス決済を浸透させることが目的になっており、小売店にしてみれば従来の現金収入から数%の手数料を差し引かれるため、確実に収益は悪化する。

2020年 6月までの「ポイント還元事業」期間中は、加盟店にも決済手数料の補助があり、還元ポイントの負担もないため、ポイント還元事業前からクレジットカード決済などを導入している店舗は、ポイント還元事業加盟店になることでメリットはあるが、今回から新たに導入した店舗は手数料負担だけが増え、「ポイント還元事業」の期間終了後も売上が伸びていれば良いのだが、売上が変わらないまま現金決済の比率が下がれば、実質的に売上減になる。

楽天インサイト キャッシュレス決済に関する調査 より

現金管理やレジ締めなどの事務処理軽減がキャッシュレス決済のメリットになっているが、決済手段を完全にキャッシュレスへ移行しない限り現金管理や事務処理は必要で、現金派が多い国内の現状では決済をキャッシュレスに移行するのは無理がある。

キャッシュレス決済はオーソリーやサーバ認証が必要なため、オンラインであることが大前提で、QRコード決済のようにユーザー側もオンラインであることが必要な場合は、ユーザー側の電波状況やアプリの障害などで決済ができないケースがあり、会計時に右往左往するケースが少なからず発生し、販売店側もルーターなど通信関連は保守契約をしない限りは自前でメンテナンスが必要で、オフラインになると決済ができなくなるなど、実務レベルでのデメリットは少なからず存在する。

クレジットカードであればインプリンターを使用して、電話で承認を取ることも可能だが、電子マネーやQRコード決済はオフラインになると使い物にならないため、オフライン時の対応はキャッシュレス決済の命題とも言える。

ポイント原資の負担

諸外国と比較しても日本の決済手数料は割高だが、その一因は「日本人が借金を嫌うから」で、いわゆる「リボ払い」をカード利用者が多用すれば、カード会社は利息で大きな収益を上げることができ、決済手数料も下げやすいが、カード利用者の多くは一括払いを利用するため、カード会社はユーザーから年会費しか徴収できず、「ポイント」も還元しているので、その皺寄せを取扱店舗が引き受けるというビジネスモデルになっている。

飲食店の場合 一般的に利益は売上の 10%程度で、原価率 30%、 人件費率 30%、家賃比率 10%、光熱費率 8%、その他(通信費・消耗品費)12% が目安とされており、利益率は決して高くない中、クレジットカードの決済手数料は売上の 5% 前後。

キャッシュレス消費者還元事業により、申請して「中小・小規模事業者」として認定されると 2019年 10月~ 2020年 6月までの期間は、キャッシュレス決済の手数料(3.25%以下)の三分の一の補助が受けられ、実質的に 2.17% 以下でクレジットカードを使用できていたが、期間終了後は 1~ 3% 程度 値上がりする。

キャッシュレス決済の最も大きな課題は「使用すると得する」というポイントありきのシステムで、ポイント原資を取扱店舗が負担している以上、現金の代わりになるまで普及させるのは難しい。