社会・時事

日本の雇用問題

終身雇用制度の終焉

終身雇用制度が一般的だった1980年代は、いい会社に入社すれば定年するまで安泰で、出社しても仕事のない 窓際族 という言葉も流行るほど、大手企業には余白を受け入れる体力があり、中小企業も安定していたが、90年代になるとバブル崩壊と同時にグローバル化が進み、国内企業は国際競争の激化とデフレによる経営危機に対応するため、人員削減や非正規雇用の導入などのリストラを行い、終身雇用制度や年功序列制度を見直す動きが生じる。

総務省 統計局 正規・非正規雇用の長期的な推移

1999年には派遣法が改正され、派遣労働者に同一労働同一賃金の原則が導入、原則として同一派遣先での派遣期間は最長3年までとし、3年を超える場合は派遣元が直接雇用する必要があるなど、派遣労働者の待遇改善が図られ、非正規雇用が増加する一方で、価値観や雇用形態への要求も変化し、正規雇用労働者の転職も増加していく。

雇用のリスク

企業にとって正社員は労働力の安定確保のほか、組織を継承する重要な存在である反面、 長期間の雇用契約労働者保護規制福利厚生の提供退職金や年金の負担雇用解雇の手続き などのリスクがあり、1991年のバブル崩壊以降、平成不況の只中にある企業は将来の不確実性や需要の変動に対応するため、柔軟性のある非正規雇用の採用枠を増やし、正社員雇用を制限するようになる。

業績の低下、組織再編、業務の廃止、パフォーマンスの不足など合法的な理由があれば、雇用主が労働者を解雇する権利を持っ米国と異なり、日本は労働法によって雇用が保護されており、社員の解雇には法的な制約があるため、パフォーマンス不足であっても解雇できず、一昔前までは 肩叩き というイジメや嫌がらせに近い手段で退職に追い込んでいたが、コンプライアンスが重視される現在では正社員雇用のリスクが増大している。

フリーランス

自由で柔軟な働き方が可能なフリーランスは増加傾向にあり、ワーク・ライフ・バランスの追求を重視する若年層などにも人気があるが、フリーワーカーは基本的にプロジェクトごとに収入を得るため、安定した収入の確保が難しいほか、社会保険が自己負担になり、失業保険や労働災害の保険も適用されないなど、雇用されていた時の保障がない。

ランサーズ 新・フリーランス実態調査 2021-2022年版より

コロナ禍で業績が低迷する中、副業・複業を許可する企業が増加したこともあり、フリーランスの人口は2021年から大きく増加しているが、勤め先から 業務委託契約 を結ばされ、否応なくフリーランスになった人も多い。

業務委託と偽装請負

日本は米国などと比較して労働法によって雇用が保護されており、社員の解雇は法的な制約があるため、雇用主は簡単に社員を解雇できない上に、近年は非正規労働者の保護が進み、ワーキングプアの解消を目的とした最低賃金の引き上げも実施され、「安くて使い捨てが可能なマンパワー」という非正規雇用の最大のメリットが薄れつつある中、業務委託 という形で個人と契約する企業が増えている

業務委託は委託主と委託先との契約関係であり、労働者と雇用主との雇用関係ではないため、最低賃金・労働時間制限・社会保険など労働法による保護がなく、企業側にとっては雇用のリスクを回避しつつ、業務を遂行できるメリットがあり、フリーランスは個人で契約を結ぶため、取引条件や契約内容において不公正な取引が起きやすく、不適切な労働条件で業務を強いられるケースもある。

偽装請負

正社員と同等の業務や労働条件で働いているにも関わらず、業務委託契約を結ぶことは労働法において「偽装請負」として違法とされており、指揮命令関係 の有無が偽装請負の判断基準になる。

業務委託は委託主から業務を委託されるため、請負人は業務の範囲・報酬・納期・秘密保持などの契約条件を遵守し、業務を適切に実施する責任を負うが、業務自体は請負人の裁量で遂行できる。
一方、業務委託契約を結びながら、実質的に正社員や派遣社員のように組織の指揮命令関係にある場合は 偽装請負 になる。

社会格差

終身雇用制度や年功序列制度は生活の基盤となる仕事の安定性を保障するものだったが、実力主義へのシフトや非正規雇用の導入などにより雇用が不安定になり、現在の日本では労働者の約1割がワーキングプア(working poor)に陥っている。

一般労働者の所定内給与額別労働者割合の推移

厚生労働省の 非正規労働者データ資料(修正) では年収192万円以下をワーキングプアとしており、年収239.9万円未満の割合は4割を超えている。

貧困率の推移

厚生労働省 貧困率の状況

2018年度の日本の相対的貧困率(全人口の家計所得中央値の半分(貧困線)を下回っている人の割合)は15.7% で、貧困線は 127万円になっており、約6人に1人の割合になっている。

内閣府 令和2年版 少子化社会対策白書より

業務委託や非正規雇用で不安定な生活を余儀なくされる人口が増加すると、結果として婚姻率が低下して出生率の減少に歯止めがかからない状態になる。
持続可能な社会を実現するには、何よりも安定した雇用が不可欠で、今後の制度改革や支援策の充実が求められる。