社会・時事

ガザの虐殺 – パレスチナ問題(10)

強行されるユダヤ人の入植

2020年11月にトランプ政権はイスラエルが占領するヨルダン川西岸地区の入植地を国際法違反と認めないと発表し、イスラエル政府は 2020年11月と12月にヨルダン川西岸地区に合わせて約 3300戸の入植地住宅建設を承認、2021年5月にヨルダン川西岸地区に約1900戸、10月には東エルサレムに約 5000戸、E1入植地(東エルサレムとマアレ・アドゥミム(ユダヤ人入植地)を結ぶ一帯で、パレスチナ人の居住区や農地が広がっている地域)に 3500戸の入植地住宅建設を承認する。

米国バイデン政権は東エルサレムと E1入植地が仮承認された際に、「2国家共存」の可能性を損なうとして入植地拡大に反対を明言するが、イスラエル政府は米国の反対を押し切って承認した。

ネタニヤフ政権は国際社会からの批判を意に介さず、「イスラエルの安全保障」を口実にして国際法に違反している入植地の維持・拡大を進め、ユダヤ人の入植によって多くのパレスチナ人が住居を没収されて土地を追われ、ヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地と隣接する地区では、ユダヤ人入植者やイスラエル軍兵士による パレスチナ人への暴力も常態化 している。

2020年にイスラエルはヨルダン川西岸地区にあるパレスチナのベドウィンにある ヒルベット・フムサ・アル・ファウカ という村を軍事射撃場にすることを宣言し、イスラエル軍は村に住んでいた遊牧民 73人を強制的に立ち退かせる。
住民は一時的に避難した先から戻ってくるが、イスラエル政府は村が「封鎖地区」だと宣言して、事前通告なしに2021年2月と 7月にもブルドーザーで住居を破壊している。

アウトポスト(前哨地)と呼ばれる無許可の入植地

1993年の オスロ合意 でイスラエルは新たな入植地建設の凍結を約束したが、ユダヤ人の入植地建設を推進する右派の活動団体 アモナ のメンバーは、「神はユダヤ人がイスラエルの土地(約束の地、パレスチナ全土)に住むことを望んでいる」としてパレスチナ人の土地を不法占拠したり、住居・財産の破壊や略奪などをして強制的に追い出し、イスラエル政府の許可を受けずに アウトポスト(前哨地)と呼ばれる入植地を建設。
アウトポストはパレスチナ人の土地の所有権や人権を侵害しているが、イスラエルの司法がパレスチナ人の訴えを認めることは稀で、訴えが認められとしても不法入植地から強制退去されるだけで、不法占拠したイスラエル人が逮捕されることはなく、実質的にイスラエル政府はアウトポストの建設を黙認している状態だったが、2017年2月にネタニヤフ政権は無許可の入植地約 3000戸を合法化する決議を可決した。

不法入植地の合法化は国際社会から強く非難されるが、2019年11月に 米国トランプ政権は不法入植地の合法化は違法ではない と発表。
不法入植地を「違法」としたのはカーター大統領とオバマ大統領のみで、他の大統領は「非合法」と表現してきたが、バイデン政権は不法入植地に対して明言を避けている。

イスラエルによるアパルトヘイト

イスラエルから隔離壁で封鎖されているパレスチナの現状は アパルトヘイトに例えられる ことが多く、国際人権 NGOアムネスティ・インターナショナルは 2022年2月にイスラエルのアパルトヘイトに関しての レポート公表

イスラエルによるアパルトヘイト体制は徹底している。ガザ地区、東エルサレム含むヨルダン川西岸地区、そして
イスラエル国内――どこに住んでいようと、パレスチナ人は劣等的人種集団とみなされ、日常的に権利を奪われている。
アムネスティは、イスラエルが支配下に置く全地域で実施してきた隔離、没収、排除など、残虐な施策が、明らかにアパルトヘイトにあたることを確認した。
この状況に対して、国際社会には行動を起こす義務がある。

イスラエルのアパルトヘイトはユダヤ人のシオニズムに基づいており、国連総会は 1975年に「シオニズムが人種差別である」という決議を採択したが、米国・イギリス・フランスなどの西側諸国(日本は棄権)が反対して否決。

米国は 2023年7月にも イスラエル支持の決議案を可決 しており、決議案には「イスラエルは人種差別国家でもアパルトヘイト国家でもなく、議会はあらゆる形態の反ユダヤ主義と排外主義を拒否し、米国は常にイスラエルの揺るぎないパートナーであり支援者であり続ける」と記されている。

米国は2019年から 2028年までの 10年間でイスラエルに対して 380億ドル(1ドル140円換算で5兆3200億円)という 史上最大規模の軍事援助を約束 (年間 約38億ドルを支援)しており、2023年のガザ紛争でバイデン政権は「イスラエルに対する不断の支持を約束」し、武器弾薬の補充や空母の派遣を行い、年間 38億ドルとは別に 140億ドル(1兆9600億円)の軍事援助を追加している。

行政拘禁と不法戦闘員法

イスラエルには治安上の理由や国家の安全保障を根拠に、罪状を示さず起訴も裁判もなく無期限に拘禁できる 行政拘禁 制度(ヨルダン川西岸地区で適用)と、非合法な武装闘争やテロ活動に関与したとされる者を「不法戦闘員」と定義し、無期限に拘禁できる 不法戦闘員法(ガザ地区で適用)があるため、イスラエルは不当にパレスチナ人を無期限に拘束(未成年にも適用される)でき、イスラエルには罪状も分からず起訴も裁判も受けられないパレスチナ人が未成年者を含めて 1000人以上拘束されている

行政拘禁は「何かしでかすかも」という未来予測で、不法戦闘員法は民間人であっても「テロ活動に参加している疑いがある」という理由で拘束でき、不法戦闘員法で拘束されると弁護士の選択や証拠の開示など被告人の権利が大きく制限された軍事委員会にかけることが可能で、軍事委員会では秘密の証言や拷問によって得られた自白も許容され、判決には上級裁判所へ上訴することもできない

行政拘禁・不法戦闘員法はパレスチナ人の人権を侵害しているとして、国連人権理事会や国連人権高等弁務官事務所、赤十字国際委員会、アムネスティ・インターナショナルなどが国際人道法に違反していると非難しているが、米国は「イスラエルの自衛権を支持する」として不法戦闘員法を擁護している。

米国のイスラエル・ロビー

米国にはイスラエルの利益擁護を政府や議会に対して要請し続ける イスラエル・ロビー が存在し、最有力の組織は アメリカ・シオニスト公共問題委員会(AZCPA)を前身とした アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)で、AIPACの会員や支持者はユダヤ人だけではなく、キリスト教右派や福音派なども含まれており、米国政府や議会に大きな影響力を持っているほか、ユダヤ人結社 ブネイ・ブリス を前身としている 名誉毀損防止連盟(ADL)などはイスラエルへの批判に対して「反ユダヤ主義」のレッテルを張り、人権問題に話題をすり替えて糾弾、政財界に圧力をかけてイスラエル批判の口封じを行っている。

  • ロジャー・ウォーターズ(アーティスト)
    パレスチナ支持の活動家で、「ロックの殿堂」の式典でイスラエル・ロビーの圧力によりビデオ上映が禁止された。
  • クローディン・ゲイ(ハーバード大学学長)
    大学で高まる反ユダヤ主義の言動について問われた際、ユダヤ人差別はあってはならないと強調した上で、個人の「ユダヤ人のジェノサイドを呼びかける」発言が校則違反に当たるか否かは「文脈による」と返答して反感を買い、学長を辞任。
  • エリザベス・マギル(ペンシルヴェニア大学)
    クローディン・ゲイ学長と同じく、公聴会での返答が反感を買って学長を辞任。
  • スーザン・サンランド(女優)
    イスラエルによるガザ地区への攻撃を非難して所属エージェンシーを解雇。
  • メリッサ・バレラ(女優)
    「これはジェノサイドで民族浄化だ」と SNSに投稿して「スクリーム7」を降板。

2021年のアル=アクサ衝突

2021年4月にイスラエル当局はラマダン(イスラム教徒が毎年行う一ヶ月の断食で、多くのムスリムが聖地アル=アクサ・モスクに集まり、最終の金曜日には数十万のムスリムが祈りを捧げに来る)の混雑を防ぐという口実で、エルサレム旧市街の北側にあるダマスカス門へのアクセスを制限して、アル=アクサ・モスクに向かうムスリムを妨害して武力衝突が発生。

5月2日にはイスラエル最高裁が東エルサレムのパレスチナ人居住区 シャイフ・ジャッラーフ地区の 13世帯 58人に対して立ち退きを命令。

シャイフ・ジャッラーフ地区は 1948年のパレスチナ戦争(第一次中東戦争)でイスラエルによって追放されたパレスチナ難民のために、ヨルダン当局と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が住宅を建設した場所で、1967年の六日戦争(第三次中東戦争)でイスラエルが東エルサレムを占領し、1980年の エルサレム法 で併合を宣言。
イスラエルはシャイフ・ジャッラーフ地区の土地の所有権を主張するユダヤ人団体や入植者を支援、裁判によってパレスチナ人住民に対して立ち退き命令を出し、現在も 1000人以上のパレスチナ人が立ち退きの危機に瀕している。

5月6日、立ち退きに抗議するパレスチナ人がシャイフ・ジャッラーフ地区で開催していたイフタール(ラマダンの期間に行われる断食明けの夕食)に、イスラエルの極右政党 オツマ・イェフディート のメンバーとイスラエルの入植者がパレスチナ人の前にテーブルを設置して挑発。
その場で乱闘になり、介入したイスラエル警察は抗議活動の抑制を口実にして、持続的(数年間は取れない)に悪臭(腐敗臭)を放つスカンクと呼ばれる兵器をシャイフ・ジャッラーフ地区の住居や店舗など広範囲に散布する。

ラマダン最後の金曜日(5月7日)アル=アクサ・モスクに集まったパレスチナ人の一部が、夕方の祈りの後でイスラエル警察に向かって事前に用意していた石などを投げ、イスラエル警察はアル=アクサ・モスクに入ってスタン手榴弾(閃光手榴弾)やゴム弾、催涙ガスで応酬。
翌日にはガザ地区のハマスがイスラエルにロケット弾を発射し、アル=アクサ・モスクからのイスラエル警察撤退を要求するが、イスラエルはガザ地区を空爆して報復し、ガザ地区では 256人(半数は民間人)、ヨルダン川西岸地区では 28人のパレスチナ人が死亡、イスラエルでは民間人 14名、兵士 1名が死亡するなど、2014年のガザ紛争以来の犠牲者を出し、 国連・エジプト・カタールの仲介で 5月21日に停戦協定が締結される。

停戦後、ハマスはシャイフ・ジャッラーフ地区の立ち退きが許可されたら再びロケット弾を発射すると声明を出し、イスラエル最高裁は判決を保留にしている。

戦闘が激化する中、国連安全保障理事会の会合が非公開で開催されるが、米国が反対して合意に至らず、5月17日の 3度目となる国連安全保障理事会の緊急会合でも、敵対行為の即時停止を求め、ガザでの暴力を非難した草案を米国が拒否権を行使して阻止する。

レイム音楽祭虐殺事件

2023年1月、ネタニヤフ政権はヨルダン川西岸地区のホメシュのアウトポスト(不法入植地)を合法化することを発表。
5月には極右政党オツマ・イェフディートの党首で国家安全保障大臣の イタマル・ベン-グヴィル がアル=アクサ・モスクを訪問し、パレスチナ人を始めとするイスラム世界を挑発するが、ハマスは「大いなる侵略と見做す」と警告したのみで武力での抵抗はなかった。

連日のようにパレスチナ人による暴力行為やイスラエル軍によるパレスチナ人の射殺事件などの小規模な武力衝突が発生、その中に武装組織とは無関係の オマル・アワディンさん(16歳)が射殺 されるなど、民間人に対する違法な殺人もあり、9月にはハマスやイスラーム聖戦などが合同で「入植地の襲撃」の訓練 をしており、ハマスの政治・国際関係部門の責任者 バセム・ナイムはワシントン・ポストのインタービューで「これまで静かだったが、沸騰し始めている。水面下では大きな圧力がかかっている。」と答えている。

2023年10月7日早朝、ハマスはイスラーム聖戦(PIJ)・パレスチナ民衆抵抗委員会(PCC)・パレスチナ解放人民戦線(PFLP)・パレスチナ解放民主戦線(DFLP)と連携し、かねてより計画していた「アル=アクサ洪水作戦」を実行。
イスラエルに向けて 3000発以上のロケット弾を発射した後、国境を超えてガザ地区近郊のレイム、シデロート、アシュケロン、アシュドッドなどイスラエルの入植地に侵攻した。

当日はレイムで音楽祭が開催されていたため、侵攻したハマスら武装勢力の標的となって残忍な殺戮が引き起こされ、イスラエルの民間人 695人(子供36人を含む)、外国人 71人、治安部隊 373人が犠牲となり、約 240人が人質に取られた。
犠牲者のうち約 500人がレイム音楽祭で虐殺されている。

イスラエルの中道左派のメディア ハレアツ はレイム音楽祭での被害について、一部の犠牲者はイスラエルの軍用ヘリコプターがハマスの戦闘員に向けて発砲したものが命中した と報じている。

どのような理由があってもハマスの襲撃は正当化されず、民間人の虐殺はテロ行為そのものだが、この惨劇はパレスチナ地区を封鎖してパレスチナ人の自由を制限し、経済制裁を与えて人道危機をもたらし、入植地を拡大してパレスチナ人を駆逐、東エルサレムの統合とムスリム(イスラム教徒)の聖地アル=アクサ・モスクでの挑発など、すべては和平プロセスを無視したネタニヤフ政権が招いたものにほかならない。

安全神話の崩壊

イスラエルや米国などからテロ組織に認定されているハマスだが、2012年11月の停戦合意 からは主にイスラエルを攻撃する他の過激派武装組織を取り締まる側で、イスラエルの挑発行為やパレスチナへの不当な処遇に反応して攻撃することはあっても、積極的にイスラエルへ攻撃を仕掛けることはなくなっていた。

ニューヨーク・タイムズによると イスラエルの諜報機関が「アル=アクサ洪水作戦」の情報を入手したのは 1年以上前 で、ハマスが実行するには難度が高すぎるとして重視されず、10月7日の決行日前にも米国 CIAはハマスが国境を超えて攻撃してくる可能性があると警告していたが、結果的にイスラエルの建国以来最大の犠牲者を出し、安全保障問題に強気の姿勢を見せ「ミスター・セキュリティ」と呼ばれるネタニヤフ首相の信頼は失墜する。

事前警告があったにも関わらずイスラエルが対応しなかったのは不可解で、ハマスを過小評価して油断があったのか、ガザ地区に軍事作戦を展開する口実を作るため敢えて侵攻を許したのかは定かでないが、イスラエルの意図的なハマス襲撃での誇張された被害報告や、執拗なハマスの残虐性と危険性のアピール、その後の人質救出を顧みない軍事作戦を見ると、ある程度の犠牲を黙認していた可能性を捨てきれない。

ガザ侵攻

ネタニヤフ首相は 10月12日に戦時内閣を発足し、ハマスの侵攻を「ユダヤ人にとってホロコースト以来の最悪の攻撃」と繰り返し批判し、「ハマスが潜伏しているすべての場所を廃墟にする」と発言。
ガザ地区への電力の 80%を供給しているイスラエル電力公社は電力を遮断、ガザ地区を完全封鎖して食料と燃料の流入を阻止し、ガザ地区を空爆する。

これまでの紛争でも空爆は行われていたが、誘導弾によるピンポイント攻撃だったのに対して、10月7日の夜から開始された空爆では 半数以上が無誘導弾だったことが判明 しており、民間人が非難しているキャンプや建物、病院などが爆撃される。

イスラエルは 10月12日にガザ北部の約 110万人の住民に対して南部に退避するよう通告し、14日には住民が通るべき避難経路を示すが、南部に向かって退避している車列にも空爆を仕掛けるなど、民間人の犠牲者は増え続け、現地で活動する NGOのメンバー、医療従事者などを含め、報復開始から 5日で 2200人以上が死亡。
電力の遮断と国境封鎖によってガザ地区にある発電所の燃料や水・食料も枯渇し始める中、イスラエルはエジプトとの国境にラファ検問所を空爆 し、エジプトはガザ地区からの避難民流入の懸念もあって検問所を封鎖。

エジプトはラファ検問所を 10月21日に開通するが、イスラエルによって燃料の搬入や供給量が制限され、ガザ地区は前例のない人道危機に陥る。

エジプトのシシ大統領は 2024年1月に イスラエルが人道支援物資の搬入を妨害している として非難している。

10月27日にハマスの軍事分門は イスラエルの空爆により人質 50人が死亡したと発表、イスラエル軍は同日夜にガザ地区への侵攻する。

ネタニヤフ首相は「人質を解放するために強力な軍事的圧力と厳しい交渉姿勢を貫く」と主張しているが、現実的に無差別爆撃や国境封鎖による飢餓状態などは、ガザ地区のパレスチナ人だけでなく、人質に囚われているイスラエル人にも影響を及ぼすため、「人質解放」がガザ攻撃の口実に過ぎないのは明白で、人質の家族や支援者はネタニヤフ政権に交渉による人質解放を訴え、国際社会の圧力とカタールの仲介により 11月24日に休戦協定が締結し、ハマスは人質の一部を解放、イスラエルも拘束していたパレスチナ人を解放し、12月1日に協定が失効すると戦闘が再開され、イスラエル軍によるガザ地区蹂躙が開始する。

イスラエル軍によるジェノサイド

「国際法を遵守している」と強調するイスラエル軍の攻撃によるパレスチナ人の死者は 2023年12月15日の時点で 18,000人(7割が女性と子供)を超え、地上侵攻を開始してからはイスラエル軍による 人権を侵害した拘束無抵抗な民間人に対する攻撃 など、国際法に違反するイスラエル軍の報道が増え、12月17日には白旗を上げていた 3人の人質をイスラエル軍が射殺 するという痛ましい事件も発生。

国連安全保障理事会はイスラエルとパレスチナの停戦の決議を採決するが、「停戦はハマスを優位にする」と主張する米国の拒否権行使によって否決。
連日の空爆と地上侵攻によって失われていくパレスチナ人の人命よりもイスラエルによる戦闘を優先させる米国政府方針は政権内部からの批判も多く、2023年11月に 米国際開発庁の職員数百人が停戦を求める公開書簡に署名 、政権の政策に抗議して辞職した職員もおり、2024年2月には欧米の政府関係者 800人以上が「自国政府の政策が国際法に違反する恐れがある」という警告文に署名 している。

2023年12月29日、南アフリカ政府はイスラエルがガザ地区でジェノサイド(集団虐殺)を繰り返しているとして国際司法裁判所(ICJ)に提訴。
イスラエルのネタニヤフ首相は南アフリカを「偽善」だとして批判し、米国もイスラエルの自衛権を支持するコメントを繰り返すが、強硬姿勢を崩さないネタニヤフ政権に対する国際社会の圧力は着実に強まっていく。

国際司法裁判所は 2024年1月26日にイスラエルに対し、パレスチナ自治区ガザ地区でのジェノサイド(集団虐殺)を防ぐためにあらゆる対策を講じるよう暫定措置を言い渡した が、南アフリカが要求した判決が出るまでイスラエルの戦闘停止は命じなかった。

米国のダブルスタンダード

米国はイスラエルに民間人の攻撃を避けるよう注意する一方で、イスラエルが湯水の如くガザ地区で使用している武器弾薬を供給してガザ地区のパレスチナ人虐殺に加担しており、ネタニヤフ政権の強硬姿勢もイスラエルに不利な国連決議を阻止する米国の協力があって成り立っている。
また、米国はイスラエルと同様にハマスをテロ組織に認定して制裁を加えているが、国際法に違反しているイスラエルの入植地拡大や核兵器の保有を黙認するなど、イスラエルとパレスチナのニ国家共存を掲げながら、イスラエルを支援してニ国家間のパワーバランスを崩している元凶でもある。

イスラエル政府は公式には認めないが、核兵器保有は公然の秘密になっており、国際原子力機関(IAEA)の監視もなく、核拡散防止条約へ加盟もしておらず、米国はイスラエルの「曖昧政策」を黙認している。

選民思想と民族浄化

かつてナチスドイツは 血と大地(アーリア人種の血とドイツの土地を尊重し保護する)を強調し、ゲルマン民族(純粋なアーリア人種)が最も優れた人種であると主張することで、ドイツ人による世界支配を正当化し、非アーリア人種の排除を助長、ユダヤ人迫害とホロコーストに繋がった。

ニ国家解決を拒否し「パレスチナ国家の樹立を妨げてきたことを誇りに思っている」と 公言する ネタニヤフ首相は、2023年10月28日にガザ侵攻を控えた兵士への演説で旧約聖書の一節を引用して、「アマレクがあなたにしたことを思い出さなければならない」と発言し、パレスチナ人の皆殺しをほのめかしている。

旧約聖書(申命記25章17節)では、神がサウル(イスラエル王国の初代王)にアマレク人(ユダヤ人の敵)を女子供や家畜に至るまで皆殺しにするよう命じており、この行為は神への奉納物として「異教の神を拝む者とそれに関連する事物をことごとく滅ぼし尽くす」ことを意味する 聖絶 として聖書では最も聖なるものとされている。

「血と大地」に基づくナチズムの選民思想はユダヤ人の迫害とホロコーストを引き起こしたが、旧約聖書に基づく神に選ばれしイスラエル民というシオニズムの選民思想は、約束の地(パレスチナ全土)と聖絶によってパレスチナ人の迫害と虐殺を正当化している。

  • アイザック・ヘルツォグ大統領の発言
    「ガザの全住民に責任がある。民間人は気づいていない、関与していないという言い繕いは絶対に真実ではない 。我々は彼らの背骨を叩き割るまで戦うでありましょう。」
  • イタマル・ベン-グヴィル国家安全保障大臣の発言
    「ハマスが壊滅させられるべきだと言うとき、それはハマスを祝福する人たち、支援する人たち、キャンディを配る人たちをも意味します、彼らはみなテロリストであり、彼らもまた壊滅させられるべきです。」
  • ヨアヴ・ギャラン国防相の発言
    「ガザ地区を完全包囲し、住民230万人の電気と食料、燃料を遮断する。我々は(人以外の)動物と戦っている。相応の措置を取る。」
    ガザが以前のように戻ってはならない。我々はあらゆるものを排除する、どんな場所にも征く」
  • アミチャイ・エリヤフ文化遺産相の発言
    「ガザの住民のために、死ぬよりももっと苦しい方法を見つけなければならない。」

ブラジルの ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ 大統領は イスラエルがガザ地区で集団虐殺を行っていると非難 し、ヒトラーとホロコーストを引き合いに出し、コロンビアの グスタボ・ペトロ 大統領もイスラエルのガザ攻撃を ナチスのユダヤ人迫害と対比 して批判している。

後のないネタニヤフ首相

2022年12月に発足した第6次ネタニヤフ内閣は、リクード党のネタニヤフ党首を首班とする右派連合の連立政権で、イスラエル史上最も右寄りの政権になっており、2023年10月のハマス侵攻後は挙国一致内閣の発足により全ての上級職の任期は戦争中は自動的に延長されることになった。

2023年12月の世論調査で 野党の支持率がネタニヤフ首相率いる連立与党の支持率を上回った 頃からネタニヤフ首相の強硬姿勢が強まり、ニ国家共存や国際的な指示の拒否など発言も露骨で、米国などの支援国に対する不満を口にするなど暴走している。
現在、ネタニヤフ首相は収賄罪など 3件の事件で起訴 されており、10月7日のハマスの侵攻を許した責任問題も追求される中、ガザへの侵攻はパレスチナ人を殺害するだけで戦果が上がらず、人質解放に繋がるハマスとの和平交渉は連立与党内の反発があるため、停戦に合意して挙国一致内閣が解散すれば首相の座を追われるのは目に見えている。

ネタニヤフ首相がミスターセキュリティとして求心力を取り戻すためにはイスラエルの国民が歓喜する戦果が必要で、すでに エジプトはラファとの境界に隔離壁を建設 しており、イスラエルが計画したガザ地区のパレスチナ人強制移住は着々と進行している。