社会・時事

キャッシュレス決済の普及について

キャッシュレス決済

ここ数年はキャッシュレス決済の割合が60%を超えている中国や韓国を引き合いに出し「キャッシュレス化が普及していない日本は遅れている」と煽るような報道が多いが、経済産業省は2018年 4月にキャッシュレス・ビジョンを発表し、来年にはキャッシュレス化推進対策と消費税増税の景気対策として「ポイント還元事業」が始まる。

経済産業省 キャッシュレス・ビジョン

韓国のキャッシュレス事情

クレジットカード大国の韓国は、キャッシュレス決済の割合が90%近くあり、キャッシュレス大国ではあるものの、近年は若者のカード破産者が急増して社会問題になっている。

韓国がキャッシュレス大国になったのは、韓国政府が政策として クレジットカード年間利用額の20%の所得控除、クレジットカード1000円以上の利用で毎月 宝くじの権利獲得という、利用者にとってメリットしかない条件でクレジットカードの利用を促進する一方で、脱税対策として年商240万円以上の店舗にクレジットカード決済を義務付けたためで、半ば強引にキャッシュレス化した経緯がある。

中国のキャッシュレス事情

中国に関しては、中国の最高紙幣「100人民元」が円に換算すると1500円程度のもので、高額品を現金で購入するのは面倒だということもあって、与信審査が必要ない銀聯カードなどのデビットカードが普及し、その素地があるところに、個人の消費動向や税金の支払い、借金などの信用情報を管理できるアリペイやウィーチャットペイが、個人を監視したい中国政府のバックアップを受けて普及。

偽札が多い中国では、現金の場合は偽札のチェックが必要なために手間がかかるが、デビットカードなら1%未満、アリペイやウィーチャットペイであれば手数料ゼロで、偽札のリスクを回避できるという大きなメリットがあるため、販売店への電子マネー導入もスムーズに進んでいる。

クレジットカードの手数料

日本国内のクレジットカード手数料は、水商売で7%前後、飲食は5%前後、物販は4%前後が標準(百貨店やコンビニ、大手量販店などはスケールメリットがあるため手数料は1~2%だと言われている)で、電子マネーの手数料もクレジットカードに準じており、決して安くはない。

もともと販売側が手数料を支払ってまでクレジットカードを導入するメリットは、現金が足りなくても買い物ができるという1点のみで、より多くの買い物をしてもらえるなら、手数料を支払う価値があるというわけだが、昨今は随分と状況が変わり、クレジットカードが使えて当たり前になっている。

一昔前の大阪日本橋などでは、支払いにクレジットカードを利用すると5%割増されたり、現金だと割引されたり、商品によっては支払いが現金のみだったり、クレジットカードの利用に◯◯円以上と条件があったりしたものだが、これらはクレジットカード契約時の約款で禁止されている。
その理由は、現金のみだと獲得できなかった売上が、クレジットカードの利用によってもたらされたので、手数料は販促費のようなもののため、客に転嫁せず店舗側で負担すべきというもの。

以前は暗黙の了解のようなもので、少額な買い物ではクレジットカードの利用を避ける風潮があったのだが、いまはコンビニやスーパーではなく専門店でも、わずか数百円の支払いにクレジットカードを利用する人が増えており、暗証番号やサインが不要な電子マネーを導入すれば、クレジットカード以上に少額な買い物で利用されるようになり、それまで現金で支払われていたものが、クレジットカードや電子マネーで支払われることになれば、販売側は手数料の負担が増える。

キャッシュレスの導入で経費が削減されるといった記事も見かけるが、完全にキャッシュレス化しない限り、釣り銭の準備や売上金の入金などは必要な上、一般的な店舗では従業員のオペレーションが増えるのみで、経費の削減にはつながらない。

キャッシュレス化は国や銀行、ユーザーにとってはメリットがあるものの、導入する販売店側、特に中小零細の販売店にはメリットよりもデメリットが多いため、普及が遅れるのも当然の帰結。

手数料無料による端末のバラ撒き

電子マネーや QRコード決済は使用するユーザーを増やす前に取扱店舗を増やさなければローカルなポイントカードや商品券と大差はないが、そんな現状を打開しそうなのが決済手数料の無料化を打ち出した ソフトバンクNの PayPayLINE Pay で、3年間という期限付きだが販売店側の負担がないため、従来の電子マネーなどに比べると導入しやすい。

デバイスを無料でバラ撒くのはソフトバンクの十八番で、地ならし~種まき期間を無料にして取扱店舗を増やし、利用可能な店舗が多く利便性が向上すればユーザーも増加するため、3年後には電子マネーを利用するユーザーの売上が無視できないシェアになり、販売店は手数料を支払って継続するという、肉を切らせて骨を断つような施策だが、それくらいの導入メリットがなければ普及は難しい。